世界最速のインディアン

というタイトルの映画の話です。旅団員ではないけれど、会社の仲間の、とあるバイクの達人から 「房総単機旅団」の教材として借りたDVDで、教材といっても別に勉強するという意味合いでもなく、とても良質な映画でした。
世界最速のインディアン」と言っても、アメリカ先住民には無関係(厳密には、作中チラッと出てくるが)「インディアン」という米国のオートバイメーカーの「1920年型インディアン・スカウト」というバイクが主役の映画で、主演はアンソニー・ホプキンス。そう「羊たちの沈黙」等でおなじみのハンニバル・レクター博士役で有名な名優です。言い忘れたけど2005年の作品で最近の映画なので当然「羊たちの沈黙」よりも「ハンニバル」よりも老化が進んだジイさんです。
そもそも自分が映画の感想なり評論を書こうとする場合、どうしても斜に構えた視線というか、下手な例えツッコミを交えたりして真正面から語ろうとしないのが癖で、その意味ではこの映画、非常に語りづらい。何故なら本当に良質な映画なので、ちょっとふざけたツッコミを入れられる感じではないのだ。
この作品の主題は、主人公のバート・マンローが何十年も掛けて改造を重ねたオンボロバイクで、ニュージーランドから単身アメリカ・ユタ州のボンヌヴィル平原に乗り込んで1000CC未満単車のクラスでスピード記録を叩き出すという快挙の物語なのだが、実はこの映画で最も肝となっているのは、実話であるそのスピード記録ではなく、ボンヌヴィルに辿り着くまでの道中の、バート・マンローと出会う人たちとの一期一会的な交流が「イイ話」なのだ。その詳細を語るのは長くなるので避けるが、要は非常にロードムービーとして傑作で、自分的には「ロードムービー」は好きなジャンルなので、そっちの視点でハマッた。
話を横道に逸らすけど、思い出の「名作ロードムービー」は、まず自分の好きなアメリカン・ニューシネマ期だと、アル・パチーノジーン・ハックマン共演「スケアクロウ」、無名の老人俳優を主役に起用した名作「ハリーとトント」(猫好きな人必見!)、テイタム・オニールがとても可愛い「ペーパー・ムーン」、そうそうバイク&ドラッグ&サイケ映画として超有名な「イージー・ライダー」は骨格としてはロードムービーです。この時期のアメリカ映画はイイ映画が多いですね。他にも北野武監督「菊次郎の夏」、ロードムービーといえばこの人!ヴィム・ヴェンダース監督「パリ、テキサス」、「さすらい」などなど。人生の黄昏を迎えた老人が何十年振りかで農耕トラクターに乗って数百キロの道のりをゆるゆると兄に会いに行く「ストレイト・ストーリー」、コーエン兄弟の名作、ジョージ・クルーニーの意外に上手い歌声が堪能できる「オー・ブラザー!」、あと勝手な思い込みでは18世紀のヨーロッパ上流社会を扱ったスタンリー・キューブリック監督「バリー・リンドン」は壮大なロードムービーと言えるだろう。そして以前取り上げた「モーターサイクル・ダイヤリーズ」は、なんつーか、「電波少年」の猿岩石やドロンズを思わせるような苛酷なロードムービーです。しかし最も苛酷なロードムービーは「路」(85年・トルコ)です。
話が横にそれ過ぎたが、「世界最速のインディアン」でポイントとして抑えておきたいのが、主人公のバート・マンローと、隣家の少年との密やかな交流です。「老人と少年の心温まる交流」というパターンって、実はけっこう鉄板ネタで、古くはヘミングウェイの「老人と海」とか、「宇宙戦艦ヤマト」における沖田艦長と古代進とか、「フランダースの犬」もそう。映画では「ニューシネマパラダイス」、老人という言い方は酷かも知れないが年配女性と少年が主人公の「セントラル・ステイション」(98年・ブラジル)や「グロリア」(80年・米)も名作です。
また話が横道に行ってしまった。「世界最速のインディアン」バート・マンローの住んでいるニュージーランドの田舎町インバカーギルの彼の家はトタン屋根のガレージ小屋。そこでひたすら自分のマシンの改良のみに生活の全てを注ぎ込む彼と隣家の少年トムの関わりを見て連想したのが「バック・トゥー・ザ・フューチャー」におけるドクとマーティーですね。近所の人からは変人という目で見られながらも、ボロいガレージ小屋でただ1人自分の信念に従って研究を続けるという、こういう歳の取り方もカッコイイと思うね。
ただ、原付バイカーの自分からすると、このスピード狂ジイさんの、時速300Kmで突っ走る感覚は恐ろしくてとてもついて行けない。走り的にはやはり「モーターサイクル・ダイヤリーズ」派です。

追記:この文章、脳内メモリにも出そうと思いますが、著作権的にはOKですかしら?NGでしたら削除します。